最後の男(ひと)
2.私を取り巻く三人の男
「一香先輩、聞きました? 伝説の営業マンがアメリカ支社から一時帰国するって話」

営業先に出掛けるために資料の準備をしていると、3年後輩の里中が耳打ちしてくる。

「会社では、名前じゃなくて名字で呼ぶように言っているでしょ。それに、いつも距離が近すぎない?」

「え~。このくらい普通っしょ。先輩ケチだな~」

振り払ってもめげないこの男は、私のことが好きなのだと言う。昨年教育担当でついた時に気に入られてしまったらしい。

この少しノリの軽いところが頭が悪そうで残念だけど、社内の女子人気は高い。学生時代に読者モデルをしていただけあって、すらりと伸びた肢体に小さな顔がちょこんと乗っている。顔の造りは、母性本能を擽るようなかわいい系の童顔で、本格的にモデルにスカウトされた事もあるのだという。

こういう話は本人から言わない限りは知りえないはずだから、自分から吹聴したのだろう。正直、この手のタイプは好きじゃないけれど、潤滑に仕事を進めるためにはそうも言ってられない。今は担当から外れたこともあり、私の方からはほど良い距離を保っているはずなのに、里中が遠慮なしにグイグイくるから困ってしまう。

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