【完】キス・フレンド

心臓に悪いなあ、この笑顔。
まぶしくて痛くなってくる。


「キスとか興味ないわけ。」


「興味ないわけじゃないですよ。
 ただタイミングがなかっただけで。」


「タイミングさえ合えばするの?」


「……まあ、そうなりますね。」


「ふうん。」


この話楽しいのだろうか。
少なくとも私は楽しくない。
私の恋愛話なんて掘り下げようにも下げる所ないし。
それなら先輩の話聞いた方がよっぽど面白いのに。


「キス、してみる?」


風がやんだ気がした。
遠くで聞こえていた自動車の走る音も。
運動場で体育の授業をしている声も。
なにもかも、日常の音すべてが聞こえなくなった気がした。


先輩の瞳を見つめる。
視線が絡まり、ほどけなくなる。
熱のこもった視線に身体が動けなくなる。
金縛りにあったみたい。
囚われて、動けない。


ゆっくりと先輩が近づいてくる。
徐々に近づいてきて鼻と鼻が触れ合った距離。
先輩の唇は、私の唇ではなく耳元に寄せられた。


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