【完】キス・フレンド
その後はお互い何も言わず、お互いの教室へ戻っていく。
キスのあとは無言。
言葉を交わすことなく、何事もなかったかのように過ごす。


この関係に意味があるのかと聞かれれば。
きっとないのだろう。
先輩の気まぐれ。
日ごろの重圧の鬱憤を晴らすための気晴らし道具。
そう思うのがしっくりきた。


その扱いに特に不満はなかったし。
先輩のキスは気持ち良かった。
私自身の日々のイライラも解消されたし。
触れる瞬間、一瞬香る石鹸の匂いがたまらなく好きだった。


数え切らないくらい交わしたキス。
それでも関係は変わらないし。
私たちはいつまでたっても平行線だ。
唇を交えても、心を関係を交わらせることのない。
曖昧で、不確かな関係。


それが悪い事だとは思わないし。
現状に満足しているから何とも思わない。
ただ、先輩が私にキスをしてくれる。
その事実だけでいい。


「広瀬、何か食べてる?」


「なんでですか?」


「柑橘系の匂いがするから。」


「ああ、飴のせいですかね。」


「飴舐めてんの?こんな暑い中?」




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