7年目の本気
『ホラ、着いたぞ』の声で、降り立った所は
清水寺本堂近くの駐車場。
そこから本堂下への参道沿いには
”全国さくら普及協会”
(こんな団体があるなんて! 初めて知った)
から、寄贈された約1500本もの、
枝垂れ桜、江戸彼岸桜やお馴染みのソメイヨシノが
一斉に咲き誇っている。
個々の桜が季節外れに咲くのは時々
見受けられている事らしいが。
それぞれ、開花時期が微妙に違うこんなに多くの
桜が一斉に咲く様はまさに圧観。
”晴明の宵(酔い)桜の狂い咲き” として
地元民に広く知られ。
清水の新七不思議とも呼ばれている、そうな……。
私も噂に聞いたり、
雑誌とかで見た事はあっても、
実物をこんな間近で見たのは初めてだった。
欲を言えばライトアップされてる夜じゃないのが
残念だったけど。
すっきり晴れ渡った青空に ――、
仁王門の朱色と、風に吹かれて舞い上がる
桜の花びらがとても映えて凄くキレイ。
スゥーっとさり気なく、私の肩口へ回された
彼の手は燃えるように熱かった。
それを妙に意識してしまって、
心臓がドキドキ高鳴る。
傍(はた)から見たら、ラブラブな恋人同士の
ような私達が、参道をそぞろ歩き再び駐車場へ
戻ると、宇佐見の車の隣に同じようないかにも
高そうな国産セダンが停まっていて、
上品なダークスーツ姿の若い男の人が
私と宇佐見を出迎えた。
「あ、宜しゅうございました。何とか無事仲直り
出来たようですね」
「あぁ、おかげさんで。 ―― 紹介しとこう、
彼は秘書の浜尾良守」
「初めまして、和巴さん。私の事は”マオ”と呼んで
下さい。ところで ――」
そう言い、マオさんが私に顔をぐっと寄せてきて。
「今日は途中何も妙な事はされませんでした?」
宇佐見は仏頂面で咳払い。
私は小さく噴き出した。
「え、えぇ、何とか」
『それは良うございました』と、マオさんは
自身の乗ってきた車の後部席のドアを
私達の為開けてくれた。
※
その車が走りだしてしばらくし ――、
ストンって、肩に軽い振動が伝わった。
見ると宇佐見が私に寄りかかって眠っている。
さっきまで綺麗にオールバックで整髪されていた
前髪が車の振動でおでこに垂れていて、
そんな様子が彼を2~3才は幼い印象に見せていて
意外とかーわいい、かも……
今さら起こすのも何だか可哀想だし、
はばかられるので少し仏心を出して。
ひざ枕で彼を眠らせておいてあげる。
でも、目前に実家が見えてきた。
私が”どうしましょう~?” って意をこめて
フロントミラー越しにマオさんを見ると ――、
「あぁ、さっさと叩き起こしても差し支えござい
ませんよ。その男、甘やかすとどんどんつけ上がり
ますので」
マオさんってかなり辛辣。
車がゆっくり家の前に停められた。
「―― だぁれが、甘やかすとつけ上がるってぇ?」
と、声を発したのは眠っていたハズの宇佐見。
「起きたならさっさとどいて下さい。重いです」
「せっかく和巴の、ふわふわ極上ひざ枕堪能してた
のによー」
と、言いつつ私を”ちょい ちょい”と指招き。
??、顔を寄せた私の耳元へ何か小声で囁いた。
次の瞬間、宇佐見の股間に和巴の容赦無い
鉄拳がボスッと食い込んだ。
「う”っ ―― オ、オレの玉が……」
「自業自得です」
と、ポーカーフェイスを崩さない浜尾。
「2週間だけといわずいっそ海外へ移住でもしたら
どうです? 宇佐見センセ」
「くっそ、かずはぁ~、覚えてろよぉ……」
「じゃ、マオさん送ってくれてどうもありがとう」
「いえいえ、どういたしまして~」