7年目の本気
 
「よっ。久しぶりぃ~。また会えて嬉しいよ」

「……」

「就職、決まったんだってな」


  んむ?? 何故あんたがそんな事知ってんの?
  だいたい、何故あんたはそこに立っている?
    

「……何か?」

「あ、急に愛想が悪くなった」


  宇佐見さんが笑う。

  やっぱ、何気にムカつく。


「何か御用でしょうか? 私急いでるんですけど?」


  彼はまた笑った。


「メシは済んだ?」


  食べてない ―― だけど、ここは本当の事を
  言ってはいけない! ような気がした。


「えぇ、もちろんきっちりと食べ ――」


  でも私の胃袋が、宇佐見さんに対して私の言葉を
  否定した。

  また、彼に笑われた。

  ん、もうっ!
  

「この前は色々お世話になったし、奢るよ。
 何か食べに行こう」

「お世話なんてしてませんが?」


  怪しい……

  よく知らない人間を簡単に食事へ誘うか?

  まさか、仕事でとんでもないポカをやらかして、
  自暴自棄になって私を道連れに心中とか……?


「あぁ、頼むからそんな警戒しないで」

「無理です」

「別に獲って食いやぁしない(美味しそうだけど)」


  私は溜息をついて、笑っている宇佐見さんを見た。


「普通、あまり知らない子に食事なんて奢らない
 でしょ? それに、明日も朝早いんで、早く休み
 たいんです」

「帰りはちゃんと送るし、キミには今日は色々と
 世話になったから……」

 
  さっきから”世話になった”って、そればっか。

  益々怪しい……私の実家突き止めて
  何かする気?

  ……怪しすぎる


「いいえ。やっぱり結構です、お気持ちだけで。
 失礼します」


  一礼して、身体の向きを変えて歩き出した私に、
  宇佐見さん声を掛けた。


「もしも、サラリーマンってのは、世を忍ぶ仮の姿
 だって言ったら、キミは信じる?」

「じゃ、真の姿はひょっとして正義の味方か何か?」

「おぉ、それもイイねぇ~」

「アホくさ」


  呆れつつも足を止め宇佐見さんをチラリと見た。


「世の中、どんな所に大きなビジネスチャンスが
 転がっているか分からない、とは思わないか?」


  宇佐見さんがニヤリと笑う。

  女子の好奇心を微妙に擽る、ミステリアスな
  言葉。

  いくら、世を忍ぶ仮の姿だからだと言っても、
  こいつだって一応は見識ある大人。
  
  常識外れな暴挙には出ないだろう……。
  
  
「……私、物凄く食べますよ」


  宇佐見さんからのお誘いをオッケーした。  


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