7年目の本気

  店内に入ると、マネージャーらしい黒服が
  宇佐見さんに声を掛けた。


「宇佐見様、いつもありがとうございます」

   
  こんな高級店で常連なわけ?

  取引先の誰かと接待で一緒に来たのかな。
  うん、多分そうだ。
  
  個室に通されて、向き合って座る。


「何でも好きなのを選べ」

「んじゃ、遠慮なく ――」


  とは言ったものの、こいつの懐具合も気になる。

  ホントに良いのかぁ? お金あるのか?


「おぉ、じゃんじゃん 頼め」
 

  大人って色々大変だ……と思った時、
  扉が開いて店の人が入ってきた。


「宇佐見様、本日はご来店ありがとうございます。
 とても良い肉が入っておりますが……」

「じゃあ、それを貰おう。後は適当に頼むよ」

「はい。畏まりました」


  ちょっと、ねぇっ!

  私に選ばせてくれるんやなかったん?

  ナニ勝手に決めてんのよ!

  宇佐見さんが私を見た。

  
「どうせ食うなら美味い肉の方がいいだろ?」

「え?」

「『私に選ばせろ』と顔に書いてある」


  また、宇佐見さんに笑われた。


  明らかに高そうな霜降りや赤身の肉がテーブルに
  並び、宇佐見さん自らが肉を焼き始めた。


「―― ほら、食え」

「い……いた、だきます」

「どうぞ」


  ひと口食べて、私は唸った! 


「うわっ、めっちゃおいし!」


  こんなお肉、食べた事ない! さすが高級店!
  

「だろ? 店長お勧めだからな」
 
 
  宇佐見さんが笑いながら肉を焼いてくれる。

  さっきの人は店長だったんだ……でも、普通店長が
  挨拶しに来るのか? ただの常連客に??

  疑問を感じながら、肉を食っている私に、
  宇佐見さんがグラスを掲げた。


「遅ればせながら、就職内定おめでとう」

「あ ―― ありがと」


  ソフトドリンク同士のグラスがカチリと
  合わさって、乾杯。

  
「―― ところで、大学はいつまで?」

「23」


   食べながら答えた。


「じゃあ、デートできるな」

「しない」


  誰がするか!


「店はいつから休みだ?」

「会社は28日、食堂が30日」

「じゃあ、年越しは一緒にいられるな、どこに
 行きたい?」

「残念でした、私はユニバ ――」


  しまった! つい『ユニバ』と言ってしまった!
  特徴のある言葉だから……バレたか?

  私は食べるのを止めて宇佐見さんを見ると、
  彼はニヤリと笑った。


「U・S・J(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)の
 カウントダウンパーティー?」


  関西ではTDLより、USJの方がメジャーだ。

  利沙のお母さん繋がりでカウントダウンパーティー
  のチケットが手に入るので、うちらは毎年そちらへ
  行く事にしていた。

  (因みに関西人はU・S・Jを略して言う時は
   ”ユニバ”と言う)

  
  バレてる……何だか分からないけど……
  物凄く嫌な予感がする。

  あ、そうだ!


「新しい彼を紹介して貰うの。就職すれば夜もデート
 できるし! せやから私の事はもう諦めて」


  私を見ていた宇佐見さんが箸を置いた。


  ほへ? 諦める??


「絶対、阻止してみせる」


  ニヤリと笑う。

  もうぅぅ!

  私は食事を再開した。


「諦めて」

「嫌なこった」


  宇佐見さんが料理を食いながら即答する。


「あなたなら引く手も数多でしょ」

「和巴が良い」

「そこまで、私みたいなお子様に固執する必要も
 ないと思うけど? ―― あ……」


  私は宇佐見さんを見ると、彼も私を見た。


「ユニバに来るつもりじゃないでしょうね?」

「ん? 残念ながら仕事だ」


  仕事か……良かった。


「そう、頑張ってね」


  仕事なら当日は来ないはずだ。

  良かった良かった。

  少し笑いながら料理を食べ始めると、宇佐見さんは
  タバコを吸い始めた。

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