7年目の本気
急接近、ひょうたんから駒
週末。

  本来なら今頃は、東京行きの新幹線に揺られている
  ハズだった。
  
  『―― あ、もしもし和巴。ごめんっ!
   太朗のアホが家の屋根から落ちて足の骨折った
   って。せやからディズニー行けんようになって
  しもたぁ』
   
  『何言うてんの! そんな事はどうでもええから
   タロさに付いててあげな』


  ―― って事で。

  どうせ家族は妙子叔母さんちへ遊びに行って
  留守だし。
  
  年始はみっちり自身のスキルアップに
  充てるつもりでいた。

  なのに!

  『今夜フィガロで待ってる』
  『 ――必ず来いよ』って、宇佐見の誘いを
  すっぽかしたら、
  こともあろうに学長から直呼び出しがかかって。

  まさか、聖職者である学長とヤクザまがいの優男が
  裏で繋がっていた、なんて、夢にも思わず。

  一体何事やろ??と、呑気に出向いた大学の
  応接室で私を待っていたのは
  大林学長と宇佐見のおっさん。

  学長は私を室内へ迎え入れると
  「それじゃ、後は頼みましたよ」と意味深な言葉を
  宇佐見へ残し、そそくさと出て行ってしまった。


「……オレは心の広い男のつもりだから、過ぎた事は
 根に持たない主義だ」


  はぁ、そうですか。


「しかし、約束をすっぽかされれば当然その理由が
 気になる……昨夜はどうして来なかった?」


  しっかり根に持ってるじゃん。


「でも、それで、わざわざ学長を通してまでの
 呼び出しは度が過ぎてるんじゃないですか?」


  彼はゆっくり立ち上がって、私がまだ佇んでいる
  戸口へやって来た。


「ほんなら、直接自宅へ行った方がよかったか?」


  いや、そんな事をされたらえらい騒ぎに
  なってしまう。
  ただ存在してるというだけで、この男は
  目立ちまくりなんだ。


「ホント、ツレナイよなぁ~……このオレがここまで
 好意を示してんのに」

「あなたのは好意ではなく、ただのセクハラです」

「お前、シラフだと(ほ)んっと可愛くねぇな。
 ま、酒が入っててもかなりの毒舌だったが」


  私はつい、あの翌朝の情景を思い浮かべてしまい、
  かぁぁぁっと赤面。

                                 
「あ、またお前何かヤラシイ事考えてたろ~……
 欲求不満なんじゃね?」

「しっ ―― ?*!★(失礼な――ッ) お話しは
 それだけなら失礼させて頂きます」


  顔が異様に熱いのは、羞恥からか? 

  彼へ激昂したからなのか?

  何がなんだか自分でも分からなくなり、
  踵を返したけど。

  彼が私の背後から手を伸ばしドアを手で
  押さえてしまったので、開ける事が出来ない!

  私より頭ひとつ半分ほど背の高い宇佐見が
  至近距離に
  (ってか、ほとんど密着状態で)
  傍に立つと、必然的に彼は私を見下ろす恰好になる。

  私は早鐘のようにドキドキし始めた鼓動を
  彼に勘づかせないよう、ゆっくり彼を見返した。

  すると、彼は私の目をじっと覗き込む
  ようにして、その顎に手を添えるとやおら
  口付けてきた。


「!! んン、ちょ……っ!やめ ―― 」


  私は腕を思いっきり突っ張って
  宇佐見を押し戻した。


「いきなり何すんのよっ」

「じゃ、予告でもすりゃ良かったか? お前ってさ、
 何だか無性にいじりたくなるタイプなんだよなぁ~」

「ふざけな ――」


  言いかけた私の唇に、懲りもせずまた
  自分のソレを重ねてきた。

  しかも今度のはかなり濃厚なべろチュー。


「やだ……って!」


  抵抗しようとする私をドアへ強く押し付けて
  強く舌を吸われる。


「やめっ ―― ん……っ」


  私の顔を両手で包むと、深く舌を入れてくる。
  引き離そうと宇佐見の腕を掴むが力は入らない。
  

「は……っ……あっ……や」


   す、すごい……
   あっという間に思考は混濁 ――

   情熱的な宇佐見の口付けに腰は砕け、
   立っているのもやっとになった頃。
  
   部屋の扉がノックされ。

   宇佐見は名残惜しそうに私を放した。


「続きがお望みなら今夜オレんちへおいで。
 場所は分かってるよな?」

「……」


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