7年目の本気

  あれから ――。

  大学の応接室を後にして、一体どうやって自宅の
  自室へ戻って来たのか?
  よく覚えていない。

  それだけ、宇佐見との口付けは鮮烈で衝撃的で……
  カウントダウンに行けなかったお詫びがてら
  遊びに来た利沙が電気を点けてくれるまで
  カウチソファーで呆然と座っていたんだ。

  「どうしたの? 何かあった?」って聞かれ。
  「別に何もないよ」なんて、答えても。

  この時の私の様子は誰が見ても普通じゃなくて、
  何かあったのは一目瞭然。

  長い付き合いの親友には最初からバレバレで……。

  私は利沙が淹れてくれたホットココアを
  飲みながら、今日大学で何があったかを
  ポツリポツリと話し始めた。


「……うちこの前フィガロで彼と鉢合わせた時も
 思ったんやけどさ……宇佐見さん、和巴の事、
 本当に好きなんやない?」

「ご冗談をっ。茶化されてるだけ。ちょうどいい
 暇つぶしの道具やて、遊ばれてるだけやし」

「せやけど、何の興味もない女の事、わざわざ
 休みの日に普通呼びつけたりするかしら」

「さぁね、最初からあいつは普通じゃなかったし、
 やる事なす事大体規格外だから」


  利沙には曖昧にそう言ってごまかしたけど。
   
  夜、床に就いても、応接室でじっと覗き込まれた
  時のあいつの強い視線が脳裏にちらついて。

  ほんの一瞬触れただけのあいつの唇の感触が
  はっきり残っていて。 
  なかなか寝付けず、ものの見事に寝不足で寝坊。

  おまけにあの時の残像が事あるごとに脳裏に
  ちらついて。

  もう! 勉強どころじゃなくって……

  年明け一番の講義は、
  祠堂の狂犬と別名のある講師・**が担当する
  現代経営学で。

  私は集中力散慢のペナルティーとして
  今週いっぱい、放課後は補習授業を受ける事に
  なった。

  トホホ……。   
   

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