7年目の本気
「―― ちょっと ちょっと、和ちゃん、
フライパン!」
そんな真守の慌てふためいた声に、
ハッ! として手元を見れば、
フライパンからはモクモクと薄煙が上がり ――、
夕食のハンバーグが真っ黒焦げになっていた……。
あちゃー……
ちょっと前 ―― 正確に言うと、
一昨日の昼過ぎから、私は変だ。
勉強も家事も、何ひとつ手につかない。
「お腹空いたぁー! もう、限界」
妙子叔母さんの長女・望(まどか)ちゃんが
カウンターテーブルに突っ伏す。
彼女は京大のオープンキャンパスの為、
東京から来ている。
「……ごめんね、今ひとっ走り行って、ほか弁で
何か買ってくるから」
「和ちゃんはゆっくりしてていいよ、先に風呂
入っちゃえば? 弁当は俺が買ってくる」
「そっかぁ? じゃ、頼んだ」
「あ、マモー、私はスペシャルS定食にエビアンねー」
「オッケー」
真守がいてくれて、ホント助かったよ。
*** *** ***
少し温めのシャワーをゆっくり浴びる。
半ばまだ色ボケしたままの体の芯には、
まだ熱が籠っているようで、シャワーの刺激にさえ
過敏に反応してしまう。
そっと唇に手をやり、宇佐見さんの熱い口付けを
思い浮かべた。
それだけで躰が火照ってくる。
あの時、誰かがドアをノックしなければ、
うちらはどうしていたんだろう……?
『―― 多分お前の事だから、奴との付き合いが
マジな恋愛に発展していくのだって秒速、
いや、音速の問題じゃないのか?』
なんて、享先輩に指摘されるまでもなく、
私はあの男 ――
宇佐見匡煌を少しずつ好きになり始めていた。
晴彦との永過ぎた春に疲れ果て ――、
もう、恋も男もたくさんだって、思っていた
ハズやのに……。
===============
『おそらく、あの時……ひと目惚れをしたんだ、
お前に』
『オレと付き合って欲しい。もちろん結婚を前提
とした真面目な交際だ』
『好きな人に好きだと言って何が悪い? 場所なんて
関係あるか? 京都駅前であろうと人混みの中心
であろうとオレはお前を好きだと声を大にして
言える』
===============
7年も付き合った晴彦にだって言われた事のない
歯の浮くようなセリフの数々は超恥ずかしかったけど、
反面、凄く嬉しかった。
まさ、てる、さ……。
妙な興奮を鎮めようと入ったシャワーだけど、
今日は逆効果だったみたい……。
下半身が熱を帯びてくる。
宇佐見の愛*を想像しながら手*に耽る己の姿が、
バスルームの鏡に映し出されている。
はぁっ ―― はぁっ……
これまで自分で自分を*めるなんて経験は、
ほとんどなかった。
積極的に誰かと肌を合わせたいと思った事も、
あまりないかもしれない。
それなのに、今の自分はこんなにも刺激を
求めている。
1人***で達しても虚しいだけだった。