7年目の本気
こんな形で初対面の人と急に2人きりに
 されてしまうと、緊張で何を話したらいいか
 分からない。

 そう、匡煌さんと初めて食事した時のよう……。

 すると意外なことに、
 気まずかったのは圭介さんも同じだったようで、
 急に思い出したようスーツの胸ポケットから
 取り出したカードホルダーから
 1枚の名刺を抜き取って私へ差し出した。


「申し遅れましたが、私こういう者です――」


 その名刺に記載されている会社名と
 圭介さんの肩書(役職)を見た私は、
 カオが一瞬フリーズした。


 ”各務グループ本社・
  東京支社営業部統括部長
  各務 圭介 ――”
  
  
 ?!へっ……各務グループ?? って、
 確か、日本の複合企業のリーディングカンパニー
 じゃなかった?

 それに、この若さで統括部長なんて……
 す、凄すぎる。

 素直に驚いて、頭の中へ浮かんだ言葉を
 そのまま口に出してた。


「――凄っごぉい、
 本物のビジネスエリート……」

『クッ――クククク……っ』


 私の庶民的つぶやきに、ちょっと恥ずかしそうに
 圭介さんは苦笑した。


「あっ、す、すみません、私ったらつい……」

「いいや、いいんだよ。でも、そう凄くはないんだ。
 ほとんど家業のようなものだから」

「家業?」

「曽祖父が創業者で今現在の経営者は伯父なんだ」


 へっ?! って事は……


「じゃ、その圭介さんと従兄弟って事は
 匡煌さんって……」

「ああ、彼の父親が各務のトップだ」


 ひぇ~~っ、知らなかったぁ……彼って
 そんなお坊ちゃんだったの!


「本来なら匡煌が僕のポストにいるべきなんだが
 あいつは故あって、10代の後半で実家から
 飛び出してしまってね、で、
 急遽僕に白羽の矢が立てられたってわけ」


 そこで匡煌さんが戻ってきて、
 圭介さんと私の話しは中断した。


「2人してなぁに熱心に話し込んでたんだぁ?」


 ?! ギクゥッ――


「なぁに、他愛もない世間話さ、あ、そうそう、
 チーズが結構旨いよって和巴さんへもお薦めしてた
 とこ」
 
 
 圭介さんがさり気なく話を逸したところを見ると、
 この話題、匡煌さんにとってあまり好ましい事では
 ないようだ。とは言え ――
 匡煌さんが”10代の後半で実家を飛び出して
 しまった”という理由が気になる。
 
 
「今日のパーティー、プロデュースは匡煌が
 任されたんだって?」

「あぁ、まぁな」


 へぇ、そうだったんだぁ。
 改めて、彼の多彩な才能に驚いた。


「道理で、ワインとおつまみのセレクトが
 イイと思った」

「毎度ありきたりじゃ味気なさすぎるだろ」


< 48 / 80 >

この作品をシェア

pagetop