7年目の本気

「……匡煌さんが、来る……ここへ?」


 ハッと我に返って自分の姿を思い出し、
 
 バスルームへ飛び込んだ。

 鏡に映る腫れぼったい瞼に、深いため息。
  
 おっと! こんな事してる場合じゃない。


 バシャバシャと冷たい水で顔を洗い。
 アイスパックで瞼を冷やす。

 あぁ、早くしなきゃ間に合わない。

 もう1回シャワーする? 時間がないっ。
 じゃ着替えが先? それとも部屋の掃除?


 夜中の1時近くにバタバタと騒々しい事
 この上なく。


 無駄に部屋中を右往左往していると ――


 ”コン コン”玄関のドアが小さくノックされ。
 
 和巴はだるまさんがころんだ状態で
 ピタリと動きを止めた。

 まだ、パジャマのままだし、
 髪の毛だってもしゃもしゃだ。


 ドアが再度静かにノックされ、
 和巴は小走りで玄関口へ行きドアを開けた ――



「コラッ、来訪者の確認はしたか?」

「あ……」

「これだから1人じゃ放っとけねぇんだよ」


 って、いたずらっぽくニッコリ微笑み和巴を
 そっと抱き寄せた。


「匡煌さ……」


 汗とタバコとアルコールの混ざり合った香りが
 和巴を包み込む。


 ホッとして気が緩んだ和巴の瞳から
 堰を切ったように大粒の涙がポロポロと
 溢れ出る。


 ホントに泣き虫なんだなぁ……
 呆れたように苦笑し匡煌は和巴を
 宥めるようその背中を何度も撫でた。


「ヒック ―― ごめ、なさい……
 ホントにごめ……」

「もういいよ。泣くな、お前に泣かれると
 俺はどうしたらいいか分かんなくなる……」

「匡煌? 好き……大好き」


 聞き返したくなるほど小さな声だったが、
 それは、匡煌の耳へ心へ、確かに届いた。

 それに対する匡煌の答えは ――


「愛してる、和巴」


 その言葉に応えるよう、和巴は自分から
 匡煌に唇を重ね合わせた。 

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