7年目の本気
やけっぱちで、イタしてしまいました。
叔母から言われたお見合いの日はいよいよ明日。


『ったくぅ ―― なぁにが ”この前みたく
 旨いもん食って、相手の野朗は適当にあしらえ”よ。
 私はあんたの何なのよ?! 晴彦のばっきゃろー』



  少しでも胸中の不安を紛らわせようと、
  訪れたカフェバー『フィガロ』
  
  あの日向が営む店だ。
  

  ―― ゴクッ ゴクッ ゴクッ
  ……ぷはぁぁ~っ。
  
  こうゆう時のお酒って意外とどんどん
  イケちゃうからふ・し・ぎ。
  
  
「ねーぇー、ヒデさぁん、おかわりー」

「和ちゃん、今夜はかなり進んでるよ、大丈夫?」

「ん~……と、思う。1人で歩けるしー」  


  日向は苦笑しつつ、
  和巴の差し出したカットグラスへ
  新たな芋焼酎を注いだ。
  
  すると、和巴の後方から男の声が ――、
  
  
「ヒデ、その焼酎、オレにツケといて?」


  見合いの釣り書に添付されていた写真に
  そっくりの男が和巴の近くに立った。
  
  因みに子の男 ―― そっくりさん、とか、
  偶然うりふたつ、なのではなく、
  れっきとした見合い相手本人・宇佐見匡煌、
  30才。
  
  しかし、かなり酔っている和巴はそれにも
  気が付かない。
  
  
「こんばんわ、隣、座っても?」

「どーぞぉ? 私の指定席やないしー」


  宇佐見は自分のドリンクを日向へオーダーし、
  1人分の席を空けて座った。
  
  そして、テーブルへ肩肘ついて、
  和巴の横顔をじぃーっと見つめる。
  
  和巴はしばらくその図々しい視線を平然と受け止めて
  いたが ――、それにもいい加減うんざりして。
  
  深い溜息をついたあと。
  
  
「つきなみな質問だけど、私の顔に何かついてます?」

「ん~……眉がふたつ・目もふたつ、鼻が1個に
 口も1個ってとこかな」
 
「あー、おもしろー」


  (何なの? このオヤジ)
  
  
「……なぁ、オレと寝よう」

「……は、い?」

「セッ*スしようって言ったの」

「アタマ大丈夫? 何なら精神科のいいドクター
 紹介するけど」
 
「あー傷つくなぁ。これでも勇気奮い起こしてキミ
 みたいな可愛い子に声かけたのにぃ」
 
「で、いきなりエッチしようって誘うワケ? 
 おっさん、どんだけ溜ってんのよ」
 
「回りくどいの嫌いだし」


  和巴は”ブッ”と、噴き出し、そのまま
  笑いのドツボにはまり、ゲラゲラ笑い出す。
  
  
「―― オレ、宇佐見匡煌」


  和巴、笑いすぎて痛む脇腹を手で押さえつつ、
  
  
「私はかずは。小鳥遊 和巴」       
   
  
  このあと2人は特に言葉を交わす事もなく、
  互いに酒を飲み干し ――、
  どちらともなく奥まった一室、
  パウダールームに姿を消した。


***  ***  ***


「あ、あぁぁ ―― っっ!!」

「っ ―― んく……っ」


  ほとんど一緒に果てた後は、各々自分で後始末。
  
  
「―― なぁ、俺ら体の相性はめっちゃいいんと
 ちゃう?」
 
「んー……確かにね」


  宇佐見、和巴にキスしようとして寸前でかわされ、
  仕方なくその首筋へねっとり唇を這わせる。
  
  
「今度はゆ~っくりベッドで楽しみたいなぁ~、
 なんて?」
 
「恋愛は本気も火遊びもリベンジなし、って決めてるの」
 
「あららぁ~、そりゃまた残念」

「ふふふ……またね~♬ めっちゃ溜まりまくってた
 お・じ・さ・ん」           
    

  と、手慣れた様子で宇佐見を押しのけ室から
  出て行った。
  
  
「おじさん、って――オレ、まだ30なんだけどー……?」
< 6 / 80 >

この作品をシェア

pagetop