暴君陛下の愛したメイドⅠ【完】
私はすぐに支度を済ませ、止めに入る使用人達を振り切りながら執務室近くへ訪れた。
何度か近くで警備する兵士に阻まれそうになったが、私のただならぬ様子を感じ、直ぐ様通してくれた。
しかし、入れるのは私だけで付いてきた使用人達は立入禁止されていない場所で待機となる。
封鎖された執務室への廊下を一人静かに歩く。
これで生死が決まると思うと、死刑の判決を下されるかも分からない裁判へ向う囚人のような気分だ。
執務室のドアをノックするが前に中から鋭い声が聞こえてきた。
「誰だ。ここには立ち入るなと命じたはずだが……?」
低くて来たものを脅すようなそんな声に思わず後ずさりをしてしまったが、
これで帰ったら止められてまでしてここへ来た意味もない。
私はノックをして、中へ入る許可を問う。
「アニでございます。宰相様と大事なお話中、非常に失礼致します。無礼を承知でここへ参りました」
「アニ……?」
陛下の不思議そうな声が中から聞こえてくる。
そりゃあ、死罪にするかどうか決めている本人がここへ来たら何しに来たんだって不思議に思うだろうけど……。
「昨夜の件でお話がございます………。どうかお会い出来ませんでしょうか?」
判決が出る前に、せめて先に謝っておきたい!
少しだけ沈黙し、中で宰相様と話すようなヒソヒソ声が聞こえた後に中へ入る許可をもらえた私は、
「し、失礼致します………!」
恐る恐る執務室へ入っていった。