暴君陛下の愛したメイドⅠ【完】
「見ないうちに大きくなったわね~………」
何がこの子をこんなに大きくしたのかは分からないが、まだ13歳だというのに158cmの私を既に通り越している。
「俺毎日牛乳飲んでっからな!」
それが理由とは到底思えないが、グラントの成長が早いのは確かだ。
(でも、取りあえず………………皆も元気そうでよかった)
前と何も変わらない家族の姿を見ると安心してしまった。
「それよりさぁ………………………家なんだしそれ外せば?」
姉がそう言って指差したのは私の頭であり、髪のウィッグ。………………………そう、私のこの金色の髪は作り物なのだ。
「6月上旬だといえどウィッグは暑いでしょう?」
「そうね……………」
姉に指摘され、着けていたウィッグをスルリと取り外すと、中からは腰辺りまである艷やかな黒髪が姿を現した。
「どうせこの里の皆は事情知ってんだし、隠す必要もねぇーよ」
姉と弟は母譲りの金髪で対する父は茶髪だった。
そんな2人からなぜ黒髪の娘が生まれるのか不思議な話だと思うが、かつて私の家系のご先祖様に1人に他国から移住してきた黒髪の方がいたそうな。
その方は特別な力を生まれ持っており、その力で様々な人をその手で救ってきたが、いつしかその力を欲しがる奴らの目に止まり、いつしか戦争が引き起こされるようになると、ご先祖は誰の目にも触れないようにと、城下町から離れ、山へ引きこもるようになったらしい。
それが、今の里であり結果的にこの里のおかげで秘密は守られている。
だが、不思議なことにその方が死んでも尚、私の家系では何百年に一度黒髪で力の持った者が誕生するらしい。
それが私であり、この家系に黒髪が生まれる理由。
そして、なぜ私が秘密を守られても尚、髪色を隠し通さなければならないかというと、幼くして売り飛ばされそうになった過去があったから。
黒髪というのはこの国では珍しく、きっと他国の貴族にでも売り飛ばそうとしたのだろう。
そんな経験から身の危険が心配だと言う母の言葉で、13歳という若さで宮殿にメイドとして働き始めた。
宮殿だと下手に手は出せないし、人身売買するような解せ者は中へ入れないから。