暴君陛下の愛したメイドⅠ【完】
今だって本当は気を抜きたくないが、流石に毎日このウィッグを被るのは精神的に疲れるものだ。
「あ、母さんがご飯だって言ってるよ」
グラントのそんな言葉で、エレナお姉ちゃんの部屋から下のリビングへとおりた。
食卓には久々見る母の手料理が並んでいた。
里芋の煮物にほうれん草の胡麻和え、そして豚の角煮。
決して内容は豪華なものではないがどれも私の好物ばかりだ。
「アニーナ。見ないうちに大人っぽくなったな」
台所に近い右端の席に座り、柔らかい表情で私に向かってそう言ってきたのは、隣町の入国管理局で働く父だった。
「お父さん!」
久しぶりの父の顔に嬉しくなる。入国管理というのはこの国にとっても大切な役割である為、私が帰省したからといっても仕事で会えない日も多い。
「今日は早番だったもので、いつもより早く上がれたのだ」
久々の家族団らんに心が浮かれる。
この里に戻って、やっと生きた心地がした。