暴君陛下の愛したメイドⅠ【完】
_____時間は遡り、昼時の宮殿ではミニ騒動が起こっていた。
「……………おい、これは誰が煎れたのだ?」
執務室で休憩なさる陛下の元にいつも通り飲み物が渡されたのだが、それに何やら問題があったらしい。
コーヒーカップの縁から唇を離すと、直ぐにソーサーの上にカップを戻した。
「ど、どうかなされましたか!?」
偶然部屋に居合わせた官僚たちも、陛下のただならぬ気配に動揺をする。
まさかあの飲み物に毒でも入っていたのかと、誰もがその状況に息を呑む。
「これはいつものコーヒーではない。……お菓子は同じだが、毎日飲んでいればコーヒーの変化など直ぐに分かる」
陛下は『直ぐさまいつもの者に入れなおさせろ』と、近くにいた者に伝えると、午後から向かう視察先の資料へと目を移した。
国境近くの町で何やら怪しい動きが見られるとのことで、陛下自らお忍びで向かうらしい。
「陛下………申し訳ございません。ただいま、いつも陛下のお飲物を煎れる使用人が休暇との事です」