暴君陛下の愛したメイドⅠ【完】
覚悟を決め、管を自力で外すと陛下を起こさぬようそっと起き上がり、私は静かに部屋から出て行った。
『楽しい夢を見させてくれてありがとうございました』
出る前に小さな声でそう呟いて。
私はいつもの日常に戻って行った______。
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「アニーナ!!あんたどこ行ってたのよ!!!」
翌日前と何も変わらない変装を施した私の前に立ち、そう小言を言うのは
久しぶりに会ったアイルさんだった。
「実家で色々とありまして……ご迷惑をおかけしました」
私の居ない間アイルさんには沢山の負担と迷惑をかけたことだろう……。
そして、
「でもさぁ、ビックリしたよね?陛下があんなにも寵愛されていたお妃様が、いきなりいなくなるなんてねぇ〜」
相変わらずの噂好き。
あの日。宮殿でたった1人のお妃は突如姿を消した。
陛下や宰相だけでなく、私に仕えていた使用人は必死になって行方を探ったが、
何も出て来なかったいう。
それはもちろんの事、もとから私はアニという名ではないし、
戸籍もない。
この地味なメイドとしての戸籍は作っているのだが、危険に晒されたら困ると言うことで父がそのようにしたらしい。
「まぁ、いきなり現れいきなり消えるって本当変な話よね〜!!妖怪なんじゃないかってちまたでは言われてる!!」
「そ、そうなんですか……」