暴君陛下の愛したメイドⅠ【完】
「お妃様に関しては非常に残念ですが、仕事をしてもらわないとこちらも困るというものです」
「……傷心に浸っていると言うのに、お前は余に働けというのか」
「陛下が働いてもらわないと、国が困ります」
相変わらずズバッという奴だ。
休む隙も与えない。
軽くため息を付きつつ、沢山積み重なった書類を手に取る。
「そういえばあのメイドは戻ってきたようだな」
「あのメイド…ですと?」
「コーヒーをいつも入れる者だ。今日のコーヒーはそやつの味がした」
もちろんそれ以外にもコーヒーはでるのだが、
あのメイドが入れたコーヒーは人一倍美味しく感じるので、出ない日は少し寂しいものだった。
「いつものバタークッキーの方ですね」
「いや、今日はなぜかバタークッキーではなかったのだ」
「では、何でらっしゃったのですか?」
「カヌレだ」
「…カヌレ?」
「甘さを控えているのに、実に美味しいお菓子であった」