暴君陛下の愛したメイドⅠ【完】
位置的に恐らく向かいが陛下の席だろう。
この部屋で食事をした事もないのに、それをしかも陛下と何て、緊張するなと言った方がおかしな話。
座っているだけなのに、心臓の音がやけに激しく感じる。
____ガチャ。
ドアの開く音と同時に現れたのは、黒いマントを揺らしながら堂々と歩く陛下の姿だった。
スッと立ち上がると、取り敢えず私は陛下に向かって敬意を示すお辞儀をする。
と言っても普通のお辞儀とあまり変わらないのだけど。
「座れ」
その声で再び椅子に腰を下ろす。
無言で陛下と向き合っているうちに、次々と料理が目の前に運ばれてきた。
コーンポタージュに小麦粉のパン。そして国の高級なヒレ肉を使ったステーキに、オシャレに盛り付けられたサラダ。
見るからに美味しそうな料理達を目の前にし、私は思わずツバを飲んだ。
宮殿で支給される使用人達のご飯は、小麦粉のパンにスープ位だし、実家で出されるご飯は豚の角煮や、里芋の煮物といったような地元の田舎料理。
このような豪華な食事は今までしたことがない。
しかもスプーンやナイフやらが、ズラーッと両端に並んでおり、どれから使っていいのかが分からない。
取り敢えず陛下の様子を見つつ、その通りに使ってみる事にした。
____カチャ……………カチャ…………。
ご飯はとてつもなく美味しい。
(しかし、この静かな雰囲気はどうにかならないかな………)
マナー的には静かに食べることが好ましいのかもしれないが、少し息が詰まる。