暴君陛下の愛したメイドⅠ【完】



一方、執務室では先程私が他の人に持っていくようにと頼んだコーヒーとバタークッキーが陛下の元へ届いていた。


「………あれ?リードは甘いもの苦手なはずでは?」


執務室で陛下に書類報告をしていたこの国の宰相ファン・ギルド・アイルヴェー・ロンザードが、見るからに甘々しいバタークッキーを目にするとそのような事を陛下に問いかけた。


その陛下はというとたくさんの資料を目の前に黙々と作業をこなしている。

「聞いてるか?」

恐れを知らない宰相はもう一度陛下に問いかけた。


この部屋には今、陛下とファン宰相しかいない。


この事は極一部の方しか知らない話だが、ファン宰相と陛下は昔からの幼馴染なのだとか。


「何だ、うるさい奴だな。今でも甘いものは嫌いだと言うことはお前なら知っているだろう?」


仕事を邪魔されて少しイライラした陛下がため息まじりにそう答えた。


「じゃあ、これは何だ?要らないのであれば、持ってこさせる必要もないだろう」


しかし、ファン宰相は陛下の答えた理由の意味が分からないといったように、顎に手を当てて未だ考えている。


そんな姿を見て仕事にならないと感じたのか、陛下は手を止めてコーヒーの置かれた机へと移動をした。


そして、バタークッキーを一口かじる。


「…………これはいつも甘くない。まるで余の好みを知っているかのようだ」


そのバタークッキーは見た目に反し、甘いものが苦手は陛下の為に作られた砂糖控えめのクッキーであったのだ。

「へぇ、そのような事をリードに言わせるなんてこれは興味深い!しかし、ここに仕える者だ。主の好みを把握するなんて当然のことだと私は思うのだがな」


次に陛下はコーヒーカップの持ち手に触れると、顔を近づけ香りを嗅いだ。

そして、一口……………口に含む。


「…………確かにな。しかし、この時間に余の飲み物を煎れてくれる者はいつも同じ人間であり、この時間に限りお菓子がついてくるのだ」


「それがどうした?」

「この宮殿で働く誰もが余の怒りをかわぬようにとご機嫌取りをしているというのに、この者にはそのような恐れが見えぬ。甘いものを出せば怒りをかってしまうかもしれぬというのにな…………………」


コーヒーカップを片手にフッ…………と笑う陛下のその顔は、少しだけ寂しそうに見える。



「そもそもこの様な行為をされたのは初めてだったものでな、非常に珍しいものと思い、今でも何も言わず続けさせているのだ」

気を取り直したようにそう言うと、再び飲み物に口をつけた。



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