暴君陛下の愛したメイドⅠ【完】



「陛下。あらかたの事情はお聞き致しました」


「恐らく商談を破棄したことによる、逆恨みだろう。偶然居合わせたこの女を人質にし、一緒に死ぬつもりだったようだ」


そう言えばあの商人の男が『偉そうな皇帝陛下』などと口にしていたっけな………。


商談を破棄されたので、あんなに怒りのこもった表情だったのかと今更納得する。


「でも、商談を破棄しなくともよかったのでは?」


前に立つファン宰相にそう問いかけてみた。


知らないけどそれなりに凄い商人だったんでしょ?


仮に商談を破棄しなければ、こんな事にもならなかっただろうし。


今回はそれがきっかけだったようにも思えるし…………。


「あの方は性格が少々荒いと前々から小耳に挟んでおりました。振る舞い方も横暴。何より他国のスパイかもしれぬと仕入れたもので、来てもらって申し訳ないが商談は破棄されたのです」



ファン宰相は前に立つ陛下の方へ目を向けつつ、「それに」と話を続けた。


「貴女に酷い立ち振る舞いを為されたとの報告を事前に受けまして、陛下はその時点で商談は破棄されておりました」


< 80 / 224 >

この作品をシェア

pagetop