暴君陛下の愛したメイドⅠ【完】
「陛下。あらかたの事情はお聞き致しました」
「恐らく商談を破棄したことによる、逆恨みだろう。偶然居合わせたこの女を人質にし、一緒に死ぬつもりだったようだ」
そう言えばあの商人の男が『偉そうな皇帝陛下』などと口にしていたっけな………。
商談を破棄されたので、あんなに怒りのこもった表情だったのかと今更納得する。
「でも、商談を破棄しなくともよかったのでは?」
前に立つファン宰相にそう問いかけてみた。
知らないけどそれなりに凄い商人だったんでしょ?
仮に商談を破棄しなければ、こんな事にもならなかっただろうし。
今回はそれがきっかけだったようにも思えるし…………。
「あの方は性格が少々荒いと前々から小耳に挟んでおりました。振る舞い方も横暴。何より他国のスパイかもしれぬと仕入れたもので、来てもらって申し訳ないが商談は破棄されたのです」
ファン宰相は前に立つ陛下の方へ目を向けつつ、「それに」と話を続けた。
「貴女に酷い立ち振る舞いを為されたとの報告を事前に受けまして、陛下はその時点で商談は破棄されておりました」