彼は私の全てだった
シュウが彩未と二人でたまに遊んでることは
彩未が話していたので知っていた。

最初に聞いた時はショックだったけど
私ももうシュウを思うのはやめようと思ってたから気にしないようにしている。

それでも二人が一緒に居ると胸が苦しくなった。

私はまだ高校生の時のシュウを忘れてない。

シュウが髪を撫でてくれたあの長い指も
何度もキスしたあの唇も
あの時のシュウの全ては私のものだったからだ。

「小泉さん、瀬戸さんと付き合ってるんでしょ?」

シュウにそう聞いたら

「柿沢さんには関係ないっしょ?」

と冷たくあしらわれた。

「じゃあ私の事も干渉しないで。

私が中村さんと話そうと小泉さんには関係ないでしょ?」

私はシュウにずっと腹を立ててる。

突然いなくなった事も
再会した時の態度も
今もずっと、シュウに腹を立ててるのだ。

「忠告してやったのに…

あの人バツイチらしいよ。

なんか…ワケありっぽいじゃん。

そんな奴、柿沢さんなんかの手に負えるの?」

「人のこと言えるの?

シュウだってワケありなんじゃないの?

私に何にも言えないとことか、
なんかもうどうでもいいけど…

よっぽど言えないような訳があるんじゃないの?」

その時のシュウの顔を見て私は自分の言ったことを後悔した。

シュウがあまりに哀しそうな顔をしたからだ。

私はそのままシュウの前から立ち去った。

どうしていいかわからなかったからだ。

休憩室の窓を開けて深呼吸した。

シュウには確実に大きな秘密がある。

私がそれを知ってはいけない気がした。

もうシュウには決して近づかないとそう思った。

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