彼は私の全てだった
結局私はシュウの腕の中で溺れた。

苦しくて息ができなくなりそうだった。

「ミチル…」

私の名前を呼ぶ声が切なくて
私はシュウの身体を抱き寄せる。

この瞬間だけシュウは私を愛してくれる。

優しくて蕩けそうなキスを何度もいろんな場所にしてくれる。

甘い声を出すとシュウは悦んだ。

いつもはすごく冷たいのに
この時だけは優しくて
私はシュウの全てを許してしまう。

「地区長とオレ、どっちがいい?

アイツでイケるの?」

シュウはまた私を貶める。

私は何も答えなかった。

シュウは私の顔を自分に向けさせるともう一度言った。

「アイツと俺どっちが良かった?」

「中村さんとはそんなんじゃないよ。
こんなことしてない。

私が知ってるのはシュウだけだよ。」

そう言った時、シュウの目が少し動いた。

シュウは誤魔化すようにキスをして私の口を塞ぐ。

私は何も言えなくなった代わりに涙を流した。

シュウは乱暴な言葉とは裏腹に
私を優しく抱きしめた。

「ミチル…泣くほど気持ちいいって言えよ。」

私はシュウの胸に顔を埋めて
シュウを感じる。

「シュウ…好き。」

そう言うとシュウは一瞬その動きを止めたけど
そのまま最後まで優しく私を抱いた。

報われない私の言葉をかき消すみたいに
雨が降り始めて窓を強く叩いた。

私の代わりに空が泣いてくれた気がした。







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