彼は私の全てだった
2人が帰って来たのは朝方で
私はそれを部屋の窓から見てしまった。

彩未はシュウと腕を組んで
笑顔で話していた。

シュウは私の前で決してあんな笑顔は見せない。

それを見てまた胸が痛んだ。

その日私は早番で
シュウは遅番で彩未は休みだった。

「おはようございます。」

と後から出勤したシュウが挨拶をした。

私は軽く挨拶を交わしたがシュウとは目を合わせなかった。

「今夜部屋行くから。」

シュウは私にそう言って
私はその言葉に腹が立った。

「悪いけど…もう無理だから。」

シュウは黙って仕事を続けていたが
手が空くと

「ちょっと来い。」

と私を非常階段に連れて行った。

風が強くて半袖の制服では少し寒かった。

「無理って?」

「もうこんなの嫌だから。

シュウには瀬戸さんがいるでしょ?」

「お前、妬いてんの?」

完全にヤキモチだった。

だけどそれを肯定したくない。

「そうじゃなくて…なんかもう…こういうの嫌になった。

仕事仲間だし…面倒なことになりたくない。」

シュウは私の顔をジッと見つめてた。

その瞳に吸い込まれてしまいそうで
私は視線を外した。

「わかった。じゃあもう行かない。

地区長にも釘刺されたしな。

俺と寝てるって言ったの?」

私はただシュウを睨んだ。

「言えるわけないか…

アイツが好き?」

「好き。

だからシュウとはもうこういうのやめたいの!」

私は頭にきてシュウに嘘をついた。

シュウもヤキモチを妬けばいいと思った。

でも私は間違っていた。

シュウは私のことを本当にただの欲望の捌け口としか思ってないみたいだった。

「そっか。

なら別にいいや。

俺も別に女に困ってるわけじゃないし…

彩未に頼んでもいいしな。」

ショックだった。

「シュウは女をそんな風にしか思えないの?

昔は違ったじゃない?

もっと優しくて…」

そう言いかけた時、シュウが壁を拳で思い切り叩いた。

手から血が流れて私はビックリして黙ってしまった。

「昔の事なんてもう忘れたんだ。

いいか?昔の俺を期待するな。

あんな何も出来ないバカなガキになんか戻りたくないし…絶対に戻らない。

お前とは終わりにしてやるからくだらない期待なんかするな!」

怒鳴るようにそう言ってシュウは階段を降りて言った。

私はその場にしばらく立ち尽くしていた。


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