彼は私の全てだった
私はシュウと離れることを諦めた。

やっぱりシュウの側に居るべきだ。

どんなに辛くても私はシュウを受け止めようと思った。

「そろそろお前の代わりに仕事行かなきゃ。

ちゃんと布団かけて寝ろよ。」

「うん。」

シュウはシャワーを浴びて服を着ると
私にもう一度キスをして部屋を出て行った。

今日のシュウは優しくて私は幸せな気分になった。

薬が効いて身体の痛みも引いてグッスリ眠った。

再び起きた時はもう陽が落ちていて
部屋が暗くなっていた。

まだ起き上がる元気はなく
そのままもう一度瞳を閉じた。

朝のシュウとの記憶が蘇る。

シュウの指や舌を思い出してその場所が熱くなった。

私は渇いた身体を潤すために冷蔵庫を開け
冷たい水を口に入れる。

スゥーっと水分が身体に浸透していくようで
気持ちいいと感じた。

その瞬間にまたシュウに逢いたいと思う。

熱が下がってお腹も空いて来た。

シュウが作ってくれたお米が膨らんだボテボテのお粥をレンジで温めて少しだけ食べた。

それでも美味しくて涙が出た。

薬を飲んでまた横になると
しばらくしてインターフォンが鳴った。

シュウはまだ仕事の時間だ。

中村さんが来たんだ。

急に胸が締め付けられるようにドキドキしてくる。

シュウとのことをなんて言おう。

中村さんとはもう終わらせなきゃならない。

私は恐る恐るドアを開けた。

「大丈夫か?」

中村さんがいきなりおデコに手をあてて
私の熱を測る。

「まだ少しあるね。」

抱きしめようとした中村さんの手を私は咄嗟に避けてしまった。

中村さんは少しだけビックリした顔をしたから

「風邪うつると思って。」

と言い訳をした。

「部屋には上げてもらえないのかな?」

私は玄関のドアの前に中村さんを立たせたままで
中村さんはそんな私に壁を感じたようだ。

「あ、すいません。どうぞ。」

中村さんが部屋に上がるのは初めてだった。

「お粥自分で作ったの?」

散らかったキッチンを見て中村さんは何かに気付いたみたいだ。

「あー、マネージャーが心配して小泉さんが様子見に来てくれたんです。

で、お粥作ってくれて…」

「そっか。」

それきり中村さんは無口になった。

「あの…もう大丈夫ですから心配しないでください。」

私は中村さんと2人でいることに息が詰まりそうだった。

はやく帰ってもらおうとしたけど
中村さんはそんな私の態度に気がついているようだった。

「それで…小泉くんとはどんな仲なの?」

「え?」

「恋愛系じゃないって言ったの…ウソだよね?」

こんな怖い顔をした中村さんは初めてだった。
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