彼は私の全てだった
しばらくして母から連絡が来た。

「ミチル…少し帰ってこられない?」

両親はずっと帰らない私を心配していたが、
今まで一度も帰ってこいとは言わなかった。

「どうしたの?何かあった?」

母はなかなか話そうとしなかったが
何度もしつこく聞いてやっとその重たい口を開いた。

「実はね、お父さんが入院したの。

大したこと無いんだけど…ミチルに会いたがって…ね。」

父は昔から腰が悪く、今回その手術をしたそうだ。

人は病気にかかったり、病院に入院したりすると
色んな事を考える。

父は普段より私の心配をする時間が増えて
不安になったのかもしれない。

「わかった。シフト調整してもらえるか聞いてなるべく帰るようにするから。」

私はマネージャーに父の入院の話をして
休みを一日もらった。

自分の休日と合わせて連休にして実家に帰ることにした。

「実家に帰るんだ?」

シュウに聞かれて何となく申し訳ない気持ちになる。

シュウにとってあの街はいい思い出では無いからだ。

「うん。お父さんが入院しちゃって…」

「ミチルはいいな。

帰る場所も迎えてくれる家族もいて…」

私はその言葉で決心する。

「私がシュウの家族になる。

それじゃダメ?」

シュウは笑って言った。

「家族か…俺は…そんなの要らないよ。

俺はミチルの身体があればいいんだ。」

「カラダだけ?」

「お前は裏切ってもカラダは裏切らないから。

気持ちは別のとこにあってもカラダは俺を受け入れてくれるだろ?

お前はそういう女だから。」

シュウは私のことを何もわかってない。

こんなに苦しいほど私がシュウを愛してることを
愛を知らないシュウは理解できない。

「そうじゃないよ。シュウがちゃんと好きだよ。」

私のその声はシュウには届かない。

私はもどかしくてシュウにキスをした。

愛してるって心の中で何度も叫びながら
シュウと何度も唇を重ねた。




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