彼は私の全てだった
シュウの母親は地元から2つ先の駅の繁華街で働いていた。

大きないわゆるキャバクラという所でホステスをしていた。

そこで色んな男と知り合い
シュウの母親は何度か恋に落ちては捨てられたとシュウは言ってた。

「もっとも最初から金目当てで男に近づいたのかもな…」

とシュウは時々母親のことを蔑んだ。

とにかく美人で目立っていたシュウの母親のことを好きになる男もいれば妬む女の人も多かったと思う。

そしてシュウの母親は亡くなるひと月前にある男と知り合った。

男の家は名家で男には妻がいた。

しかしシュウの母と男は運命的に知り合って
離れられなくなった。

男は家を出て、シュウの母親はシュウに当面の生活費だけを残して姿を消した。

いつもは3日くらいすれば帰ってきた母が
帰って来なくなり
シュウは今度こそ捨てられるのではないかと
不安になった。

そしてひと月が経ったある日、
シュウの叔父がシュウを訪ねてやってきた。

「お母さんが死んだ。

これから葬儀に行く。

制服を着て来い。」

シュウは何が何だか分からなかったが
叔父に連れられ既に棺桶に入っていた母を見て全てを悟った。

「心中だそうだ。

最後までバカなヤツだ。」

叔父にそう言われてシュウは自分のことを考えずに男と死を選んだ母を恨んだ。

それがことの顛末だが、
シュウの母親の死には謎があったようだ。

抵抗した跡が残っていて
無理心中ではないかと思われたが
どちらにせよ2人とも亡くなってしまって
相手が名家なだけにその真相が暴かれる事はなかったそうだ。

単なる心中で処理されたまま
相手の家からの圧力で事件は大きく扱われる事なく小さな記事で名前も表にはほとんど出なかったそうだ。

一部ネットで騒がれたりしたが
その投稿もすぐに削除された。

北川真一の叔父が警察の人間とのことで
その話を偶然耳にしてしまったそうだが
北川真一は今まで誰にも話すことなく
胸にしまっていたようだ。







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