彼は私の全てだった
シュウの為に北川くんはその事実を誰にも話さなかったが
私にだけそのことを教えてくれた。
「どうしてこの話を私に?」
「何となく柿沢は知ってた方がいいと思って…。
ベラベラ人に話すタイプでもなさそうだし…
昔付き合ってたろ?
小泉柊は…昔、俺が困ってた時助けてくれたことがあって…
アイツに本当のことを知ってほしいと思った。
親が知らない男と心中なんて…きっと傷ついたと思うから。
真実はそうじゃないって…。
でも…俺からはやっぱり話せなくて…」
「そうだったんだ。」
シュウは捨てられた訳じゃなかった。
シュウの母親は土壇場でシュウのために生きなくちゃと思ったのだ。
それにしてもこの話をシュウにしてもシュウは大丈夫なんだろうか?
もしかしたら男の家族を恨んだりしてしまうんじゃないだろうか?
自分の母を死に至らしめたことを隠蔽し、
合意の上で命を絶ったということにしてしまった相手の家族にあのシュウが何もしないとは思えなかった。
「でも…この話をシュウにしてもいいのかな?
だって言い方は悪いけど…殺されたみたいなものでしょ?
それがうやむやになって…シュウがその家族を許すと思う?」
北川真一もその事は考えたそうだ。
今になって真実を知ることがシュウにとっていいこととは限らない。
「任せるよ。
話すのも話さないのも…柿沢に任せる。
ずるいって思うかもしれないけど…
俺は一年のとき、同じクラスだっただけでアイツとも仲よかったわけでもなかった。
こんな俺じゃどう言ったらいいかわかんないし…
柿沢なら小泉のこと俺よりずっと理解してるだろ?
だから柿沢がいいと思うようにすればいいよ。
俺なんかじゃ小泉が背負った傷をどうにも出来ないから…
とにかく柿沢には知ってて欲しいと思って…
それにお前、あの時…何も知らずにアイツと別れたろ?」
確かに北川くんは今のシュウを知らない。
残忍で気まぐれで誰も愛せない今のシュウを知ったら
きっとこの話を誰もシュウには出来ない気がした。
それでもシュウのお母さんがシュウを捨ててないという真実を知らせないのはあまりに酷な気がした。
それにしてもこんな大事な話を私に任せるなんて…
聞かなきゃ良かったと聞いた後に思った。
北川真一は多分自分が楽になりたかっただけで
私はそんな北川真一を恨んだ。
気持ちはわからないでも無かったけど
こんな重たい話は私にだってどうにもできない。