彼は私の全てだった
オープンして間も無くは働く人が安定せず
突然来なくなったり、辞めたりするバイトの人が多くて
残業を頼まれる事が多かったが
他の新人2人は断ることが多く、
残るのはほとんど私だった。

特に予定がある訳でもなく
身体を動かしていた方が気持ちが楽だった。

「柿沢さん、いつも悪いね。
本当助かるよ。」

マネージャーの松下さんはいつも感謝してくれてるし、
時々人が居なくて手伝いに来る地区長は真っ先に私の名前を覚えてくれた。

「お疲れ様です。柿沢…ミチルさんですよね?」

「あ、はい。」

「地区長の中村です。

いつも笑顔が良いですね。」

地区長の中村さんは30歳くらいの人で
この地区を回って指導する人だ。

ここは新規店舗という事もあり、
オープン前からしばらくは毎日のように来ているので顔を見る機会が多かった。

カッコよくて、感じも良くて、
いつも少しネクタイを緩めにしてて
スーツが似合う背の高い素敵な人だった。

「マネージャー、他の2人は今日も帰っちゃった?」

「はい。用事があるとかで…お願いしても半分は断られますよ。」

「今日もまた柿沢さんだけか…。

大丈夫?無理してない?」

ネクタイを外しながら中村さんが私に話しかけた。

その姿になんとなくグッときてしまう。

「私は…特に用事もないですから。」

「カレシとか居ないの?

あ、こういう質問でセクハラかな?」

笑うと目元に出来るシワさえ、素敵に見える。

「居ないですよー。

居たらこんなに残業してません。」

「じゃあ、いつも頑張ってくれるご褒美にこの後、ご馳走しますよ。

柿沢さんは明日はお休みでしょう?

マネージャーと3人で少し飲みに行きませんか?」

私は何となくうれしくてその日、中村さんとマネージャーと3人で仕事上がりに飲みに行った。




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