仁科くん、君ってやつは
あの時も涙をこらえて『うるさい』って言い返したな。
……私は、ただ酒井くんのことが好きなだけなのに。
仁科くんに迷惑はかけてないのに。
どうして、彼は、
酒井くんのことになるとそうやって、悲しそうな顔をするの。
「……それだけは、無理、だよ」
私は、酒井くんのことが好きなんだ。
だからそのお願いは、聞けない。
トンと、あいてる手で仁科くんの胸を押すと、
仁科くんはその手も取ってキュッと握りしめた。
「……行くなって」
「だからそれは……んっ」
突然のことに頭が真っ白になる。
今も触れている唇に、目を丸くした。