仁科くん、君ってやつは


あの日、私は酒井くんに告白をしようとした。



ドッ、ドッ、と心臓の音が大きくなっていくのが分かる。





「ねぇ、名前、呼んでいい?」


「っ、そんなの、いつも呼んでるじゃん」


「下の名前」





変だ。


こんなので一々ドキドキしてるなんて、私らしくない。


しかも相手は、あの仁科くん。

私に散々意地悪をした、仁科くん。







「……佳乃」







ドキンと、心臓が大きく跳ねる。


いつもの、余裕たっぷりな声じゃない。



仁科くんは、愛おしそうに、ゆっくりと、"ヨシノ"と私の名前を呼んだ。





「なぁ、チャンス、まだあるんだろ」


「っ、う」





言葉に詰まる。


だって、なんて言っていいのか分からない。


< 37 / 39 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop