仁科くん、君ってやつは
あの日、私は酒井くんに告白をしようとした。
ドッ、ドッ、と心臓の音が大きくなっていくのが分かる。
「ねぇ、名前、呼んでいい?」
「っ、そんなの、いつも呼んでるじゃん」
「下の名前」
変だ。
こんなので一々ドキドキしてるなんて、私らしくない。
しかも相手は、あの仁科くん。
私に散々意地悪をした、仁科くん。
「……佳乃」
ドキンと、心臓が大きく跳ねる。
いつもの、余裕たっぷりな声じゃない。
仁科くんは、愛おしそうに、ゆっくりと、"ヨシノ"と私の名前を呼んだ。
「なぁ、チャンス、まだあるんだろ」
「っ、う」
言葉に詰まる。
だって、なんて言っていいのか分からない。