ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「上に行けばわかりますよ~。百聞は一見にしかずって言いますからね♪」

あっけらかんと返してくる所長。

「さあさあ、立ち話もなんですから、さっそく研究室に行きましょうか。むさ苦しい所ですけどコーヒーぐらいお出ししますよぉー。インスタントですけど」

ハハハと笑いながら、僕の背中を押してホール奥の階段へと歩いていく所長。

(…面白い人、だよなぁ)

らしくないよ。

肩書きのワリには声もしぐさもあまりに調子が軽いし。

そんなに早足で歩いて行かないでくださいよ。

と思ったら、階段の手前でピタッと立ち止まって振り返ってくるし。

何をニヤけてるんですか所長?

「見たらビックリしますよぉ」

「え?」

「ボクたちが、これからやろうとしている事に」

一瞬、所長の目がギラッと光った。

怖いくらいに。

(な、なんだ、今の目…)

そのまま薄暗い階段を、カツカツと靴音を響かせて上っていく所長。

(タダ者じゃないのかも、この人…)

かなりのキレ者か、はたまた研究に狂った科学者かって眼差しだった。

何だろうこの胸騒ぎは。

これだけの施設で、やさしい研究はやってないハズ。

その研究の一翼を、これから僕が背負う事になるんだ。

(この先、一体何が…)

ハンパには出来ないゾ。

所長の後について黙って階段を上る内に、自然と姿勢を正していた。
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