ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)

抱えて研究所へ

 研究所では所長を始め研究員のみんなが待ち構えてくれていた。

「早く奥へ運ぼう、さあ」

研究室に入るなり所長の声が飛び、研究員たちがミライを抱え上げ、奥の寝台へと運んで行った。

「ビックリしたよ、君から連絡もらった時は」

心配そうに声を上げる所長。

「すみません、僕が付いていながら」

ホントに申し訳ないです。

「セーフモードで再起動したんだよね?」

「え、ええ」

確かにそう声が聞こえましたよ。

と、本田君が横から口を挟んできた。

「セーフモードで再起動してるんだったら、システムには問題ないと考えていいんじゃないでしょうか?」

問い掛けに、首を振って返す所長。

「いやわからないよ、調べてみないとね。ひょっとしたらいくつかデータやシステムは壊れてるかもしれない。だからセーフモードで再起動したって事もあり得るよ」

「普通に再起動出来ない状態かもしれない、って事なの?」

横から聞くクワン。

「最悪、初期化も考えておかないとね」

「初期化?」

それって、

「そう。ミライの頭の中をまっさらな初期の状態に戻すって事さ」

そんな!

今までの事が全て消えて、白紙の状態に戻ってしまうって事じゃないですか!

「ホントに初期化するんですか?」

そんな事になったら一大事だ…。

「とにかく、調べてみないと何もわからない。データの抽出に全力を注ごう。みんな、今日の予定はすべてキャンセルだ!」

声を張り上げる所長。

研究員たちが慌しく動き出す。

必死になっている所長たちの姿を見るにつけ、自分の不甲斐無さを思った。

(見てるしかないのか…)

僕なんか、ここでは何も出来ない見学者に過ぎないんだ。
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