ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
 次の日の昼前。

遅れて実験室の扉を開けた。

と、正面に広海君が神妙な面持ちで立っているじゃないか。

「ごめんなさいっ」

急に頭を深く下げる広海君。

「え?」

どうしたことだろう。

いきなり広海君が謝ってくるなんて。

と、広海君が伏目がちに口を開いてきた。

「…ミライさんの事、わかってたハズなのに」

「え?」

何を言ってるんだ?

「病気だってわかってたのに、私あの日、自分が楽しいコト優先させて、夜遅くまで付き合わせちゃって…。食べられないほど重い病気なのに。髪の毛だって違ってるのに。その事知ってて私…。先生が一緒に住んで面倒を見てあげてるぐらいなのに…」

ずっと俯き加減の広海君。

どうやら自分が夜遅くまで遊びに付き合わせたせいで倒れたと、すっかり思い込んでるみたいだ。

道理で大人しくなるワケだよ。

(…でも、その方が話が上手く進みそうだゾ)

よ~し。ここは広海君の思い込みをそのまま利用させてもらおう。

「今回は僕も悪かったんだ。だから広海君も、これから気を付けてくれればいいからさ」

一度ミライに目配せしてから答える。

と、広海君がキュッと肩を竦めた。

「うんわかった。…ミライさん、体の方は大丈夫?」

「うん。もう平気だから」

「何か困った事があったら言ってね。相談に乗るから。これからも一緒に頑張っていきましょう」

「うん。ありがとう」

手を取って打ち解けあう二人。

よかった。

(これで丸く収まりそうだな)

思惑通り、この時からミライと広海君の関係も上手く行って、すべてが順調に回り始めたのだった。
< 105 / 321 >

この作品をシェア

pagetop