ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
 映画を見終えると広海君とルミちゃんたちと別れて、まだ外が明るい内にアパートに帰ってきた。

夏に階段を三階まで上がるのは結構キツい。

部屋の前で立ち止まり扉の鍵を開けようかという時、ミライがあさっての方向をじっと見ているのに気づいた。

「ん、どうしたんだ?」

ミライが見つめる先に目を向けた。

と、向かいのマンションのベランダに、タバコ片手にこっちを見ているニヤけ顔の所長がいるじゃないか!

「所長ぉ!どうしてそんなところにっ!」

この人はホント、いつも僕を驚かせてくれる。

「やあ!夏休みの間だけここに引っ越して来る事にしたんだよ!」

よく見ると、窓の奥の部屋の中で奥さんらしい女性がダンボールを抱えて歩き、まわりで小さな女の子二人が楽しそうにじゃれ合っていた。

「こっちに来ないか!コーヒーぐらい出すよ!もちろんインスタントだけどね!」

声を掛けてくる所長。

僕は頷き返して、ミライと一緒に所長のマンションにお邪魔することにした。
< 109 / 321 >

この作品をシェア

pagetop