ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
 夕食を食べ終えてタバコを吸いにベランダへ出た所長に、僕は呼ばれた。

「どうだい、ミライの様子は」

そう来ると思いましたよ。

「ええ、とてもいいですよ。最近特に『らしく』なりましたしね」

グッと女の子らしく、可愛らしく。

「らしく、ね」

と、どこか遠くを見つめるようにタバコをふかして言葉を続けてくる所長。

「今日は一段と表情豊かに見えたなあ。ボクが思ってた以上に表情を作り出せてる。自己学習プログラムが想定以上に働いてるみたいだ。早く蓄積データをチェックしたいところだね」

さすがに『らしい』感想を出してくる所長。

(自己学習プログラムか…)

ふと、一つ疑問が沸いてきた。

「所長、そのうちプログラムが、自分から『感じる』ってコトを理解する事はないんですか?」

そうだったらどんなにいいだろう。

「それはないねー」

首を振って、タバコをフーッとふかす所長。

「ないんですか?」

「プログラムは、こういう時にはこの表情、そう判断するパターンを増やしてプログラムを書き換えてるだけで、どうしてそう感じるのかまで掘り下げて分析している訳じゃない。表情が豊かになったのは、ココロが豊かになったんじゃなくて、パターンデータが豊富になったってコトの現れなんだよ」

「そうですか…」

どうやら、非科学的なミラクルは期待出来そうに無い。

「ボクが技術者として驚いているのは、データの蓄積率とパターン分析の効率が想像以上だなってコト」

と所長がこっちを振り返ってきた。
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