ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「ひらめいた?」

「そう。逆もあり得るんじゃないかってね。例えばさ、君の笑顔を見てそれを笑顔だと認識したら、独立した中枢制御のプログラムが、調整装置をフル稼働して電圧を最適値に導くようにする。ミライのカラダが一番動きやすい状態になる。そんなカラダの変化を感じ取ったミライのココロが、それを『イイ』と笑顔で表現するようにするワケさ」

と背もたれに体を預けて続ける所長。

「外界からの刺激でミライのカラダに生じる『イイ』電圧環境の変化。それをトリガーにして、ミライのココロが、一緒にいると嬉しい、お酒を飲んだら楽しい、抱き締められると愛しいって事を感じられるようにするのさ」

両腕を広げて見せる所長。

なるほど。

刺激を受けたカラダに変化が起こって、それをココロが感じ取れるようにする訳ですか。

「電圧を、トリガーにして?」

そこがちょっと機械的で気に掛かるんですけど。

「そうだよ。人間の感覚信号も一種の電気信号だし、それで脳からホルモンが出て体が熱くなったりするんだ。ほら人間だって、ビビビッと来るなんて言うだろ?」

微笑んでさらに続ける所長。

「見つめられるだけで体が上気してきて、思わず顔に笑みがこぼれる。同じ事をミライも感じられるようにするんだよ。人間が心で感じるのと同じように。もっと笑顔でいたいと思えるように。それが一番幸せなんだと思えるように」

ミライにじっと視線を送る所長。

「ずいぶんロマンチックなんですね」

所長って。

「そうだよ。僕だけじゃない。ここにいるみんな、ロマンを抱えてここに集まってるんだよ」

にぎわいを見せる研究室の中、所長が熱い視線を送る先に、ミライの姿がある。

「もうすぐだよ。感じるココロが出来上がるのは」

所長が見つめる先で、微笑みを浮かべて立っているミライが、新しい『笑顔』を見せる時が来るのか。

「待ち遠しいですね」

ここにいると、なぜだか自然とそんな風に思えてきますよ。
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