ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「じゃ、もう君はいいよ」

と、あっさり口調で椅子から立ち上がる所長。

「えっ?!」

もういいって?

「プログラムが出来るまでミライはここに置いとくからさ。君もずっとここにいる訳にはいかないだろ。だからもう帰っていいよ」

澄ました顔でガラス窓越しに研究室を見つめる所長。

(もう帰っていいって…)

ミライを連れてくる為だけに、僕を呼んだんですか?

「いやだけど所長、今一人で帰されたって、」

何だか名残惜しいじゃないですか…。

「ミライは早めの夏休みを取って実家に帰ったって、そんな感じでみんなには言い訳しておけばいいよ」

いやいや、そうじゃなくて所長。

「そうだなぁ、お盆過ぎると思うよ、完成するのは。楽しみに待っててよ。それじゃ忙しくなるからさ。また電話するよ」

と所長が待ちきれない様子で、控え室から研究室に出て行ってしまった。

僕なんか眼中にないみたいだ。

「…」

慌ただしい雰囲気の研究室とガラス一枚で仕切られた静まり返った控え室。

その中にポツンと一人、取り残されてしまった。
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