ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「そうだよ。まあ別に、好きな名前があれば変えても構わないよ」

微笑んで返してくる所長。

そう言われても。

「そのままでいいですよ」

今までずっとそう呼んでたんだしな。

「ウン、じゃあ、彼女に向かって名付けてあげてよ」

所長の声に、僕は向き直って『ミライ』と名前を呼んだ。

「名称設定。確認しました。指示をどうぞ」

って、どうぞと言われたって。

「所長、次はどうすれば?」

パッと所長を振り返った。

「じゃあ、ノーマルモードで再起動と声を掛けてやってくれるかい。それで、新しいミライが動き出すよ」

所長の声に、一瞬ゴクリと息を呑んだ。

(新しいミライ…)

目の前に立つ、微笑を浮かべて止まったままのミライが新しく動き出す。

果たして、どんな笑顔を見せるのか。

「…ノーマルモードで、再起動」

呼び掛けると、ミライがピクンと反応した。

やがて瞳に静かに光が満ちていく。

(ミライが戻ってくるんだな)

僕の部屋で、また二人の生活が始まる。

(ミライと二人か…)

ふと、広海君の顔が浮かんだ。

(戻って来るのはいいけど、)

広海君との関係は壊したくないな~。

(ま、なんとかなるかな)

慌てずミライが動き出す時を待つ。

と一度瞼を閉じたミライが、飛び立つかのようにクッと伸び上がった後、静かに体を元に戻した。

(いよいよだ!)

やがて正面に立つ僕を見つめるように、瞼がゆっくりと開く。

「先生…」

久しぶりに聞く、天使のような愛らしい声。

「ミライ」

新しいミライが、今、動き出したんだ。
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