ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
 お昼になる前に、荷物の積み込みは無事に終わった。

「いやー、お陰ではかどったよ。ありがとう」

トラックの荷台の扉を閉めて近寄って来る所長。

「お安い御用ですよ」

ちょっと筋肉痛が心配ですけどね。

と、横から奥さんも寄って来た。

「ご免なさいねー、今日はバタバタしてるから何もしてあげられないの。また遊びに来てね。その時にご馳走してお返しするから。今日は許してね」

奥さんが申し訳なさそうにしてる。

「いえいえ、気にしなくていいですから」

大した事してませんし。

「あっそうだわ、あげようと思ってたものがあるのよ」

と、奥さんがトラックの助手席のドアを開け、スーパーのレジ袋で溢れるダンボール箱を抱えて戻ってきた。

「これ、ミライさんにあげてね」

受け取ると思ったより重たくて、中で金物がガチャッとぶつかる音がした。

なんだろう。

覗き込むと、野菜の入ったレジ袋の下にフライパンや鍋が見えた。

え、こんな物までいいんですか?

「ミライさんの手に馴染んでるみたいだったから、あげるわよって話してたの。これからも料理を頑張って欲しいから。あなたの食生活改善の為にも、ねっ」

振り向いた奥さんと、愛ちゃんたちと遊んでいたミライが顔を見合わせて微笑み合ってる。

(そこまで考えてくれてるなんて…)

ジーンと嬉しさを感じますよ。

「じゃあボクらはもう行くよ。ありがとう。楽しかったよ」

所長が微笑みかけてきた。

「こちらこそ」

色々楽しませてもらいましたよ。

「これからも、ミライを宜しく頼むよ」

所長が僕の肩を叩いて、後ろをパッと振り返った。
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