ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「…帰ろうか、ミライ」

「うん」

振り向いて実験棟へと向かって歩く。

すっかり人影がなくなった校舎に入り、五階に上がって実験室の前まで来ると、扉にメモが貼り付けてあった。

「先に自分ちに帰りま~す。ごゆっくり♪」

って、気を利かせて帰ったのか。

「広海さん、先に帰ったのね」

メモをじっと見つめるミライの横顔が少し寂しそうだ。

「僕達も帰ろうか」

声を掛けて、頷いたミライを連れて外へ出る。

後片付けを始めた学生達の間を通り抜けて裏門に向けて校舎の裏へと回る。

人込みは無くなったけど、ミライがくっ付いたまま歩いてくる。

「ちょっとさむい」

可愛らしいミライの声。

枯葉が舞うほどの風が吹きつけて来てる。

「早く帰ろう!」

ちょっと出し抜くように走り出してみた。

ついて来れなかったミライの手がほどける。

「待ってよ~」

はしゃぐように声をあげたミライが、走り寄って抱きついてきた。

「んもぉ~、イジワル」

フクれておどけて見せるミライ。

(フッ…)

まるで恋人、だよな。

「あったかい」

ミライが胸に顔をうずめてくる。

温もりが体に染み込んでくるようだ。

「そうだな」

込み上げてくるこの愛おしさはなんだろう。

(あたたかい…)

腕の中で感じる温もりは、体だけじゃなく心までジーンと温めてくれる。

この温もりがなかったら、ミライにここまで感情移入出来なかったかも知れない。

ホント、よく出来てる。

間違いなく最高傑作ですよ、所長。
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