ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「少し急な展開だったな」

と教授が、呟くように声を掛けてきた。

振り返ると、机の向こうに回りこんだ教授が椅子にドッカリと腰掛けて、僕を見上げてきた。

「外部からの情報で気付いたとなると、ミライ君の正体に気付いた時の反応の観察としては、イマイチだな」

って、この期に及んで観察の方を気にしてるんですか教授?!

(少しは僕の気持ちも汲んでくださいよ)

そもそも教授や所長が言ったから広海君に嘘をついて、こうなったんじゃないですか。

(おかげで広海君、怒って飛び出して行ったじゃないですか)

どうしてくれるんですか。

「大丈夫でしょうか広海君。このまま放っておいても」

居ても立ってもいられませんよ。

「大丈夫だろう。これで心折れてしまうようなヤワなハートじゃないだろう」

教授が余裕の笑みを見せてくる。

(…)

それはまあ、確かに。

「それより気がかりなのは所長の方だよ。私もさっき電話を掛けてみたんだが、全く繋がる気配が無い」

あっ、そういえばそうだった。

昨日の夜から研究所は大変な事になってる筈だし。

確かに気にはなる。

「ちょっと、僕も掛けてみます」

携帯を取り出して掛けてみた。

が、『電源が入っていないか電波の届かない…』ってお馴染みのセリフが繰り返されるだけで、繋がらない。

「ダメですね…」

そんなに大事になっているのか?

どうしたらいいんだろう。

ミライとここに居ても大丈夫なのか?

「しばらく様子を見たほうが良いだろうな。昼頃にでも、折をみて掛けてみるといい」

新聞を手に取って、鼻メガネで読み始める教授。

「はい、そうですね…」

とは言ったものの。

所長と連絡が取れないとなると、これからどうしたらいいのか見当も付かないよ。

まして、さっき飛び出して行った広海君に何と言って声を掛けたらいいのやら…。

(どうなるんだよ~)

どうにも不安なんですけど、教授。
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