ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
 タクシーを飛ばして夜の研究所へやって来た。

「うわっ、なんだあの人だかりは」

正門の周りに、カメラやマイクを手にしたマスコミの人たちが山となって集まって、建物に向けて幾つもの銀色のライトが掲げられている。

「さっきテレビ中継やってましたよ」

運転手がチラッと振り向いてきた。

「入院してるお嬢さんのご両親がアメリカから来て、ここに入っていくのを映してましたよ」

カーナビ兼用のモニターを指差す運転手。

そうだったのか。

そんな事になっていたのか。

「裏から入った方が良いと思う」

ミライが声を掛けてくる。

確かにそうかも。

「すみません運転手さん、裏の駐車場の方へお願いします」

裏の駐車場の入口に横付けしてもらってタクシーを降り、閉じているバーを潜って緑地を通り抜けて、シャッターが下りてる裏口に駆け寄ってインターホンを押す。

と、本田君の声が返ってきた。

「あっ先生、そこはリモコンキーか内側から手動でしか開かないんです。今そっちへ行きますから」

しばらくしてシャッターが開いて本田君の姿が現れた。

表情がやけに険しい。

早速さっき聞いた事を問い掛けてみる。

「クワンの両親が来たんだって?クワンはどんな具合?」

聞いたとたん、本田君の眉間にグッとシワが寄った。

「良くないんですよ…」

うめくように答えてる。

「そんなに良くないのか、クワン」

「ええ。助手席側から信号無視の車にぶつけられて、一命は取り留めたんですけど、意識が戻る見込みがないって言われて…」

意識が戻る見込みがないだって?

かなり重体なんだ。

「それで両親が飛んで見舞いに来た訳か」

心配で堪らないだろうナ。

「ただ、それだけじゃないんですよ」

「え?」
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