ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
 控え室の中では数人の研究員たちが机についてパソコンと向き合っていた。

とその中に一人、机の上に広げた本を眉を顰めて読んでいる、見覚えのある横顔があった。

「あれっ、広海君???」

声に気付いて振り向いた顔は、間違いなく広海君だ!

「何で?」

何でここに???

「何よ先生、何そんなに驚いてるのよ」

って、驚くだろそりゃ!

君が何でここに居るんだよ!

「そうそう先生、私決めたからね」

えっ、何を?!

「私、ここの研究員になるから」

ハイッ?

「ここで、所長の研究の手伝いをするって決めたから」

広海君がグッと身を乗り出してきた。

「な、ナニ突然言いだすんだよ!そんな事出来るワケないだろ!ウチの研究はどうするんだよ」

君は僕の研究室の院生だろっ。

「先生の研究はミライさんが手伝ってくれるからイイじゃない。共同研究なんだから、私がこっちを手伝ったってイイ筈よね」

って、ナニ『へ理屈まがい』の事言ってるんだよ。

「じゃあ、論文はどうするんだ、卒業は」

ここまで来て辞めるのは勿体ないだろっ。

「ちゃんとゼミにも出るし、卒業出来るだけの事はするわ。それ以外はずっとこっちに居るから。四月からはここで研究員として雇ってもらうの。卒業後の進路まで決まったんだから、先生に文句言われる筋合いは無いでしょ」

ム、そう言われると返す言葉が無くなる。

でも、

「どうして急にここを手伝うなんて…」

あんなに怒って飛び出して行って、一体何があったんだ?
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