ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「ロボットのハード面の研究は煮詰まったと言っていい。これからは、ロボットが人間社会に溶け込む為のソフト面が重要になってくる。そこで、ロボットのより人間らしい行動の実現の為に、そして、ロボットに触れる人間の行動をフィードバックする為に、君の経験を生かして『ロボット行動学』を興してみないか、と」

ロボット行動学、か。

「その為には、そうと知らされずにロボットに触れた人間の経験が、重要かつ欠かせないものになるんだよ、と」

本田君が広海君に向き直った。

「私はそのために選ばれた人間ってワケ」

広海君がニンマリと、満更でもない様子で笑みを浮かべてる。

マッタク、上手く言い包めたもんだな。

「それでね、プログラムの仕組みぐらいはわかっておいた方がいいから、こうやって基本を勉強してるわけ」

広げた本の表紙を見せる広海君。

「だから先生も安心して、これからはミライさんと実験ガンバってね」

って、あれ、すっかり僕って過去の人になってる?

「ねぇ本田さん、もっとわかりやすい本はないの?」

「ああ、僕が最初に勉強した本はわかりやすかったですけど。実家のどこに置いたかなぁ。あ、ネットで探してみましょうか」

「うんお願い」

と、机の前に腰掛けてパソコンをいじり始めた本田君に寄り添う広海君。

こっちには見向きもしないよ。

「…コーヒー、おいしいね」

ひとり呟いて、カップをしばらく啜っていた。

なんだろうねこの虚しさは。
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