ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
 研究所には変わらずマスコミが人だかりを作っていた。

その日は裏の駐車場にも待ち構えていて、バーを潜ろうとする僅かな時間にも容赦なくインタビューの魔の手が伸びてきた。

「所長が書類送検されましたがどう思われますか!」

えっ、何だって?!

(所長が書類送検された?…)

呟きながら裏口に駆けつけ、本田君に開けてもらって中に入った。

「所長が書類送検されたって?」

問い質すと、本田君が頷き返してきた。

「そうなんです。実験中の職員の安全管理を怠ったっていう、業務上過失致傷の罪だそうです」

「そうか…」

所長がしっかり監督していれば事故は防げた、ってコトか。

所長も頭が痛いだろうな。

「ところで先生、今日はどうしてここへ?」

おお本田君、よくぞ聞いてくれました。

「いや、ミライの正体がバレたらしくて、大学の実験室に学生が群がって来てさ、身動き取れなくなりそうだから逃げて来たんだよ」

あのまま居たらトイレにも行けなくなるよ。

「そうですか…」

あれ、なんだか憂鬱そうだね本田君。

「ひょっとして自宅の方にもマスコミが来ませんでしたか?」

ああ、そうそう、

「来たんだよ、輪になって」

なぜわかったんだい本田君?

「そうですかあ~、やっぱり」

やっぱり?

どういう事だ?

「なあ、ミライの事がバレた、そもそもの理由は何なんだい?」

気になるのはそこだよ。

と、本田君がフッと息を吐いた。

「バラしちゃったんですよ、局長が」

「局長が?」

何でまた局長が?

「取材陣からあんまり失敗ですか失敗ですかってツッ込まれるもんだから、一号機は成功しとるって、ついポロッと言っちゃったんですよ。しっかり胸を張って」

なるほど…。

やりそうな感じだね、あの人なら。

「どうします?所長は局長と一緒に裁判所に呼ばれて出てますけど、戻って来るまで待ちますか?」

「そうするよ」

二つ返事で答えて、本田君について研究室へと向かう。

階段を上る足取りが重いよ。
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