ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
 研究室に入ると、ロイが横たわる寝台の周りにパソコンやら工作装置やらが集められて、研究員たちが側に集まって何をするでもなく立ち話をしていた。

「あれっ、ロイの方はまだ解決してないのか」

見た感じ何も進んでないみたいだけど。

「ええ。どうするかの方針は今朝決まったんですけど、ほら、局長の承認をもらわないと何にも作業出来ませんから。局長待ちですよ」

そうか。

(面倒な事になったな…)

イチイチあの局長の承認を得ないといけないなんて。

「ミライの方はどうですか。何か変わった事とか、不具合な点はないですか?」

あ、ミライは、

「バッチリだよ。何も問題はないよ」

ちゃんと毎日をこなしてるしね。

「そうみたいですね」

微笑み返してきた本田君が、寝台から少し離れた作業台に置かれたノートパソコンの前に腰掛けた。

「今となっては、ミライの笑顔がみんなの希望ですよ。よいしょっと」

本田君がパソコンに向き直って、書類の山に囲まれた中でマウスをクリックし始め、画面に設計図らしき物が映し出された。

「それは?」

「三号機ですよ」

「えっ、三号機!」

もう次を?

「まだ作るわけじゃないですよ。予算もないですしね。ロイの反省点を生かして、ミライをベースにしたモデルのデータ構築をしてるところです。頭の中ではもう形も出来上がってるんですけどね。いつになるかわかりませんけど、今のうちから準備しておけばすぐ実行に移せますから」

本田君がフッと口元を緩めながらメガネを押し上げてる。

「立ち直るの、早いね」

本田君も研究に一途なんだね。

「研究に失敗はツキモノだって所長がよく言ってるんです。多かれ少なかれ失敗には得るものがある。失敗を悔やんでるぐらいなら、気持ちを切り替えて失敗から学んだことを次へ繋げた方がいい」

「なるほど」

いい言葉だな。

所長の経験から得た教訓ってトコロかな。

「まあ、そうでもしないとやってられませんよ…」

ポツリと呟く本田君。

それが本音なんだろうな。
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