ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
「あ、ああ、うん」

生返事で頷くと、ミライがボストンバッグを開いてそそくさと準備を始めた。

(気をつかうよ…)

いくら病気だから面倒見なきゃいけないっていっても、彼女は女なんだ。

フロや寝る所は分けなきゃいけない。

洗濯物も一緒に洗うわけにはいけないだろうし。

パンツ一枚で部屋をうろつくわけにもいかないし。

掃除だってこまめにしないと体にさわるだろうし。

朝は一緒に大学に行かないといけないから、時間に余裕を見ておかないとな。

(ん~)

そもそも、

(ホントに大学なんかに連れてって大丈夫なのか?)

不特定多数が行き交う雑多な環境の大学。

そんなところへ連れて行って、彼女の体はホントに持つのか?

(どうなるんだろ、これから…)

リビングのソファにドサッと倒れ込むように横になる。

そのまま天井を見上げる。

(引き受けるんじゃなかった)

半ば強引に返事をさせられた割には、背負わされた責任が大き過ぎませんか所長。

(勘弁して欲しいよ~)

見上げる白い天井。

丸い照明。

音のない部屋。

扉が開いたままの洗面室。

静まり返った部屋の中に、服を脱ぐ音が手に取るように聞こえてくる。
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