ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
 研究室では、ロイが横たわる寝台の周りに機器類があふれ研究員たちが輪になって取り囲んでいた。

と、少し離れた作業台に腰掛けていた所長が気付いて寄って来た。

「やあ~、おかえり」

ニコやかに微笑みかけてくる。

「聞きましたよ、ロイが動いたって!」

やりましたね所長。

「ウン、セーフモードでの再起動には成功したんだ」

所長がロイの寝台に向かって歩いていく。

ついて行くと、寝台の上に横たわるロイの片目が外されて、剥き出しになった内部に何本ものコードが繋がれていた。

「うわ、…」

ロボットとはいえ見るからに痛々しい。

「クワンの虹彩のデータを直接、視神経に送り込んだんだ。ロイの全身を高温にして強制的に冷却装置を起動させることで電圧を上げてね」

傍にはサウナスーツのような袋が放り出されてる。

「今はデータの抽出に全力を注いでるんだ。分析と考察はこれからさ」

微笑みかけてきた所長が、フッと控え室を振り返った。

「彼女も間に合わせようと必死で頑張ってるよ」

控え室の中で、パソコンのモニターを凝視する広海君の顔が覗き見える。

あんなに真剣な顔は見た憶えがないよ。

「やる気で一杯、か」

すっかり研究所の中に取り込まれてるな。

(ホントにここの一員になる気か)

何だかまた一歩離れてしまったような…。

(いいのか、このままにして)

気が焦ってくる。

といって、何をどうしたらいいんだ?

僕の事なんかまるで見えてない風に勉強に夢中になってるし。

(今は何を言ってもムダっぽいな)

う~ん。

教授もそんな事言ってたしな。

タイミングを待つべき、か…。
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