ふたりの彼女と、この出来事。 (新版)
 木曜日、大学から研究所に戻って来ると研究室の中がウソのように静まり返っていた。

寝台の傍にある作業台のノートパソコンの前で、所長と本田君の二人だけが腰掛けて話をしている。

「?」

所長がやけに憂鬱そうだ。

何かあったのか?

と、不意に振り返った所長と目が合った。

「やあ、おかえり」

挨拶をくれた所長の顔がフッと陰る。

「所長、どうしたんですか?」

いつもの明るい所長じゃないですよ。

と、所長が持っていた書類の束をかざした。

「ロイの原因がわかったんだよ」

えっ!

「わかったんですか!」

やったじゃないですか!

…と喜んで返したけど、所長は顔色を曇らせたままだ。

(何か重大な事でも?)

致命的なミスとか、手に負えない不具合とか?

じゃなかったらこんなに落ち込むハズがない。

「どうしたんですか所長?」

と、所長がフッと口を開いた。

「これから局長に説明しに行かないといけないんだよ」

……。

(なんだ、)

そっちで落ち込んでたんですか。

(まあ、気持ちはわかりますけどね)

考えただけでウンザリしますね、確かに。

「…で所長、原因は一体?」

何だったんですか?

「ウン、話すと長くなるからさぁ、本田君、説明してやってよ」

「いいですよ」

本田君が頷いて返すと、所長が僕の肩をポンと叩いてきた。

「じゃ、局長がお待ちかねだからさ…」

所長が肩を落し気味に研究室を出て行く。

ご愁傷様です所長…。

「それじゃあ、説明しましょうか」

本田君が微笑んで見上げてきた。
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